中秋節と月餅と蛋黃酥

九月も半分を過ぎると、日中はまだまだ暑いが、陽が落ちるのは目に見えて早くなり、吹き抜ける風も涼しく秋めいてくる。夕方に散歩に行くと、ちらほらとバイク乗りでなくても長袖の上着を着ている人を見かけるようになった。そういえば、バイクに乗っている人は風除けや日除けのために真夏でも上着を着ていることがある。私は日本でバイクに乗ったことがなかったので、最初はこんなに暑いのになぜ上着?と不思議だった。バイクの後ろに乗ってみてわかったが、走行中はかなりの風を受ける。あまりの強風で、寒く感じるのだ。しかし信号で止まれば、屋根の無い道路で太陽にじりじりと焼かれる。(時々信号手前の影があるところで信号待ちをしているバイクも見かけたりする)バイクも楽ではない。

気候も秋めいてくるが、他にもあぁもう秋なのだなと思わせてくれるものがある。月餅と蛋黃酥。この二つは中秋節の際に食べられる(日本でいうところのお月見団子だ)もので、買ってきたり手作りしたりして友人知人に配る。ぽつぽつと家の中にこれらが増え出すと、ああもうすぐ秋が来るのだなと実感する。

実は私個人としては、中秋節といえば月餅よりも蛋黃酥の印象が強い。頂く割合が蛋黃酥の方が月餅よりも圧倒的に多いからだ。それに、街中でも蛋黃酥に出会うことの方が多い。

中秋前のある日、散歩をしていると、焼き菓子を扱っているケーキ屋さんの前を通った時のような、ものすごく良い匂いが漂ってきた。いったいこの匂いはどこから?と辺りを見回してみたが、特にそれらしいお店は見つからない。手前にあるカフェもお休みで、シャッターが閉まっている。はて…と思いながら少し行くと、人だかりが見えてきた。何か屋台でも出ているんだろうかと近づいてみると、なんと行列しているらしい。しかも、手前の曲がり角の先まで続いているようで、列の先頭も見えない。いったい何が買えるというのだ。はやる気持ちを抑え、足早に曲がり角を曲がった。すると、列は一軒のお菓子屋さんに吸い込まれていた。店の前に立てられたのぼりには、蛋黃酥と書かれていた。

またその次の日に、散歩がてらパンでも買って帰ろうとパン屋に寄った。店はガラス張りになっているが、西日に反射してよく見えない。ただ、いつもと何か違う感じがする。やだな〜へんだな〜こわいな〜と思いながら扉を開けた。そして違和感の正体に気づいた。パンが一つもないのである。パン屋なのに。(笑)パンの代わりに、店のあちこちに所狭しとならべられた箱、箱、箱。その箱の壁の間から店員さんがひょっこりと顔を出して言った。

「ごめんね〜、今日は蛋黃酥しか置いてないの。中秋節が終わるまでこんな感じなのよ〜」

なんと、パン屋ですら中秋節のために蛋黃酥に全振りするというのである。すごい気合いの入れようだ。

こういった具合に、蛋黃酥エピソードは探さずとも出てくるが、月餅エピソードは今のところ無い。台湾の人は月餅より蛋黃酥の方が好きなのだろうか?それともうちがたまたまそうなだけだろうか。台湾にお住まいの皆さん、どうですか?

ちなみに、月餅や蛋黃酥は中秋節以外でも食べられている。月餅も、我が家では中秋には登場回数が少ないが、別の時期にちょくちょく頂く。最近では宮原眼科のチョコレート味の月餅がとても美味しく、子どもと競い合うように食べた。普通の月餅が苦手な方にもおすすめだ。

また、7月だっただろうか、夫の友人に「並ばないと買えないんだよ〜」と言って不二蛋餅の蛋黃酥をもらった。台湾では行列のできるお店だとか、並んで買うような食べ物の事を「排隊美食」と言うらしい。この不二蛋餅の蛋黃酥も台中辺りでは大変有名で、外側のパイの部分が洋菓子のように香り高く大変美味しかった。一つは他所のお家で子どもを見ながら食べたのでしっかりと味わえなかったが、もう一箱頂いていたので帰ってゆっくり食べようと思っていた。が、次の日起きたら、ゴミ箱に空箱が突っ込んであった。犯人なぞ一人しかいない。え?食べたの?6個入りをひとりで???蛋黃酥をご存じの方なら「オイオイ一つくらい残しておけよ」より「オイオイそんなに食べて大丈夫なのか」という感想が先に来るはずだ。なんせ中秋節前になると、蛋黃酥のカロリーはいくらだと言う話題がニュースを賑わせるのだ。有名どころの蛋黃酥カロリーランキングなんて言うものまで発表される。ちなみに2023年高カロリー第一位は金葡萄の蛋黃酥で328キロカロリーだそう。このランキングでいくと不二蛋餅のものは232キロカロリーである。それを6個……恐ろしいのでこれ以上は書かない。みんなが蛋黃酥何個食べる〜?半分にしておこうかな…!と悩んでいると言うのに。若くないのだから、もっと身体を労ってほしいものである。

皆さんは、どのお店の月餅や蛋黃酥がお好きですか?おすすめがあればぜひ教えてください。

(終)